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2013年度無煙映画大賞作品評

2013年度無煙映画大賞受賞作品評

<作品賞>

「はじまりのみち」 原恵一監督 

「木下恵介生誕100年記念」映画です。戦争末期に病身の母親(田中裕子)をリヤカーに乗せて疎開させた時のことを描いています。木下(加瀬亮)は公開された「陸軍」が軍情報局から「女々しい」と非難され、「もう監督を辞めよう」と故郷の浜松へ帰りました。しかし、空襲は激しくなり、より山奥へと疎開することにしました。母親をリヤカーに乗せ、兄(ユースケ サンタマリア)と荷物を運ぶ「便利屋」の青年(濱田岳)とで出発します。雨も降り峠越えは難儀しますが、なんとか無事到着することができました。そして母親から「夢をかなえなさい。」と励まされ、もういちど監督として歩み始めるのでした。
 

見どころは「便利屋」とのやりとりです。戦争が終わったら「カレーライスを食べたい」と、食べるしぐさをする濱田の演技は見事です。また、「便利屋」は木下が撮った作品とは知らず、「映画『陸軍』を見て泣いた。」と語る場面も泣かせます。「陸軍」のラストで母親役の田中絹代が出征の行進をする息子を追っていく姿が感動的でした。この場面を映すためにこの映画を作ったとでもいえるのではないでしょうか。
 

木下の作品の名場面がいくつも紹介されますが、「新・喜びも悲しみも幾年月」でやはり母親役の大原麗子が海上保安庁の職員となった息子に「戦争に行く船じゃなくてよかった。」というセリフがラストのセリフとなり木下の思いを伝えました。
 

タバコは本編上では無煙でした。ただ、木下作品を紹介する中の「香華」という作品でキセルをブハーと吹かす場面がありました。 

<主演女優賞> 前田敦子

「もらとりあむタマ子」 山下敦弘(のぶひろ)監督 

23歳のタマ子(前田敦子)は大学卒業後甲府の実家に寄生しています。髪はボサボサ、ジャージで一日中漫画を読んでごろごろしています。一緒に暮らす父親(康すおん)はスポーツ店を営みながら三食を用意するだけでなく、家事のすべてをこなしています。タマ子は店も家事も手伝わず、父親から一言言われただけで逆ギレします。しかし、父親に女性の姿がちらつき始めるとタマ子は落ち着かず行動を開始するのですが・・・。

前田が「もらとりあむタマ子」のイメージ通りの絶妙な演技をしています。モデルのオーディションを受けようと企んでいたときは温野菜しか食べなくて、それをあきらめるとまたガツガツ何でも食べるようになったり、はじめはストーブの給油を父親にやらせていたのを言われなくても自分でするようになったり、行動が微妙に変化して行く様子をさりげない行動で表現していて、脚本もよくできていますが、それ以上に前田が自然に動いていました。特にタマ子の洗濯物の干し方は最高です。タマ子に関わる中学生(伊東清矢)も「天然コケッコー」の岡田将生を彷彿させる名演技でした。前田とともにこれからが楽しみです。

タバコはなし。無煙です。昨年「苦役列車」、一昨年「マイ・バック・ページ」と2年連続の「汚れた灰皿賞」の山下監督ですが、「山下君、きみもやればできるタイプ、じゃないか。」とほめてあげたいです。

印象に残った場面は、テレビを見ていたタマ子が「ダメだな!この国は」とつぶやくと、父親はダメなのはおまえもだといった顔をします。その表情がすごくいい。2度目には言葉に出していいますが。 

<主演男優賞> 大地康雄

「じんじん」 山田大樹監督 

「ガマの油売り」の大道芸役者の銀三郎(大地康雄)は気楽な一人暮らしをしています。子どもの頃一時期住んでいた北海道の地に幼馴染がいて田植えの季節に手伝いに行きました。絵本で町おこしをしている剣淵町にはちょうど東京から高校生が農業体験で来ていました。そこで銀三郎は6歳の時に別れた娘と出会うのでした。
 

大地康雄がずっとあたためていた作品が地域の手で映画化されました。大地演ずる銀三郎はどう見ても「寅さん」なのですが、考えてみれば今の観客は同時代に渥美清を見ている人は少なくなってきているのでしょうから、第2の寅さんが出てきてもいいころですね。寅さんをまねているようでもありますが、嫌みがなく大地康雄としての心を揺さぶる演技がさえていたのではないでしょうか。
 

北海道の自然の美しさや剣淵町の町おこしを背景に、父と娘の関係、絵本のすばらしさで笑わせたりほろりとさせたりします。後半の顛末も単純な決着にはならず、脚本もよくできていました。また、もう一つの舞台が震災から復興しつつある松島なので製作者の震災に対する思いも伝わってきます。
 

ちなみにタイトルの「じんじん」というのは「感動が脈打つように心身に染み入る様のこと」です。
 

ちょうど札幌にいる時に先行上映で観ることができ、思い出の作品となりました。
 タバコはなし。無煙です。

<監督賞> 吉田康弘 

「旅立ちの島唄 ~十五の春~」

沖縄の離島、南大東島が舞台です。人口1200人余りのこの島には高校がありません。ほとんどの子どもは中学卒業と同時に島を出て那覇で暮らします。主人公の仲里優奈(三吉彩花)は中学3年生になり、少女民謡グループ「ポロジノ娘」のリーダーとして母から譲られた三線を手に卒業の時に唄う「アバヨーイ(さようなら)」の練習に励んでいます。父親(小林薫)はサトウキビ農家、母親(大竹しのぶ)は兄と姉が進学で那覇へ行ったときについていったまま、島にはほとんど戻っていません。家族にはそれぞれの事情があったのです。
 

離島の四季の生活を織り交ぜながら十五歳で人生の決断を迫られる優奈の1年を描いています。都会とは全く違う島の生活が生き生きと描かれています。主役の三吉は民謡も披露し、衣装や髪型が大変よく似合っていました。三吉が魅力的で、今後が期待できます。南大東島に行ってみたくなりました。
 

島がいまTPPで揺れていることにも触れています。「サトウキビは島を守り、島は国を守る」という標語が印象的です。日本列島にはこのような小さな島がたくさんあり、そこにはいくつもの「一五の春」があるのでしょうね。
 

タバコはなし。無煙です。島での宴会や漁師の集まりなどでもタバコを出さずとてもよかったです。

「江ノ島プリズム」 

仲良し3人組の修太(福士蒼汰)、朔(野村周平)、ミチル(本田翼)が高校生になったある日、朔が急死してしまいます。原因が自分にあるのではないかと苦しむ修太は朔の三回忌に「タイムトラベル時計」を手にします。そして2年前にタイムスリップして、なんとか朔が死なないように奔走するのでした。そんな時、学園に取り残されたタイムプリズナーの「今日子」(未来穂香)に出会います。そして彼女からは「過去を変えることは思い出も消えてしまうことになる」と忠告されます。それでも朔を救うことができるのでしょうか。
 

全編に江ノ島付近の景色が流れ、ちょっとレトロな江ノ電が効果的です。タイムトラベラーものでは名作の「時をかける少女」を彷彿させる作品です。若手の俳優が好演していました。狂言回しの役割をする「今日子」がどうして学園にいることになったのか、もうひとこと説明が欲しかったです。
 

タバコはなし。無煙です。ただ、街中を自転車で疾走する場面でタバコの自販機が映りました。なお、江ノ電の禁煙表示などが映りました。
 

吉田監督は、「旅立ちの島唄 十五の春」につづく無煙映画作品です。

<特別賞>

「いのちの林檎」 藤澤勇夫監督 

新築した家に引っ越してシックハウスが原因で化学物質過敏症となり、近所のゴルフ場で撒かれる農薬、歩きタバコの煙、芳香剤などを感じるたびに呼吸が苦しく動くこともできなくなる症状に苦しめられている早苗さんが主人公です。そして、無農薬、無化学肥料で育てた木村秋則さんの林檎と出会い救われる、というドキュメンタリーです。早苗さんの症状は想像をはるかに超えていました。空高く飛ぶ飛行機の低周波音や水にまで反応し苦しむ姿は正直に言うと「今までよく生きてこられた」と逆に感動してしまいます。同じく化学物質過敏症でもある母親の献身的な介護があればこそです。さまざまな化学物質が充満し、一見便利になったような今の世の中が本当の意味で人類を幸せにしたのかを問いかける秀作です。
 

ただ、どうしても気になるのは木村さんの喫煙習慣です。さすがに映画の中では喫煙していませんが、ちらっと映ったポケットの中のタバコの存在が納得できません。
 

「ラブ 沖縄@辺野古・高江・普天間」 藤本幸久、影山あさ子監督 

1995年の少女暴行事件から始まった普天間基地返還と辺野古移転に反対する県民の闘い、そして高江に建設しようとしているオスプレイ用のヘリパッド基地建設反対闘争、それに対する日本政府の対応を描いたドキュメンタリーです。
 

沖縄防衛局の職員、沖縄県警の警察官、そして映画「海猿」では人々の命を体を張って守ろうとしている海上保安庁の職員たちまでもが、なぜか反対をしている市民に牙をむいています。ここには米軍基地のために日本人同士がいがみ合うという不条理があります。
 

沖縄には日本の米軍基地の74%が集中し、沖縄本島の20%が戦後60年も経つというのに、いまだに米軍に占領され続けています。これはどう考えてもおかしなことです。沖縄では、以前から日本政府による差別という言葉が出ていましたが、いまやそれは多くの人たちの共通の言葉となっています。
 

2011年2月、高江での沖縄防衛局と反対派住民との攻防のシーンでは、筆者がちょうど座り込みに参加していたときに激しいぶつかり合いとなり、作業をさせまいと走り回ったことが思い出されます。
 

辺野古での海上でのカヌーややぐらにへばりついての阻止行動、高江での体を張った抵抗行動、そして普天間でのゲート前での闘いはどれも現場を知るものとしては命を懸けたたたかいでもあったのです。
 

ある人の言葉が印象的です。「私がここで阻止しなければ、イラクの子どもたちを殺している行為の加害者となるのです。」
 

タバコはなし。昨年、「誰も知らない基地のこと」という映画で紹介された「高江」の場面ではそこだけ喫煙シーンがあってがっかりしたのですが、今回は同じ人が映っていましたがタバコは映っていませんでした。やんばるの森にタバコの煙は似合いませんからね。
 

最後に、この映画の後半で歌われた「沖縄を返せ」の歌詞を。70年代では、本土復帰を求めてよく歌われていました。<固き土を破りて 民族の怒りに燃える島沖縄よ 我らと我らの祖先が 血と汗をもて守り育てた沖縄よ 我らは叫ぶ沖縄よ 我らのものだ沖縄は 沖縄を返せ 沖縄を返せ> これを1995年頃、石垣市生まれの大工哲弘さんは、<沖縄を返せ 沖縄へ返せ>と歌い、いま普天間では、<普天間を返せ 沖縄へ返せ>と歌っています。

「いのちが いちばん 輝く日 ~あるホスピス病棟の40日~」 溝渕雅幸監 

滋賀県近江八幡市にあるホスピス「希望館」の、2011年12月から40日間のドキュメンタリーです。ガンの終末期を迎えた人が過ごしています。細井医師は白衣を着ないで「患者と医師」の関係ではなく、「人間と人間」の関係をめざしています。人生最後の日々をいかに人間らしく尊厳を持って過ごすことができるのかを医師として患者に提案します。そして最後の日はできるだけ家族とともに迎えられるよう助言します。そうすることで「いのち」がつながれてゆくのです。

患者とその家族のことを真剣に考えケアしている細井医師と出会えたことがこの映画を成功させたといえます。世の中には「患者様」と呼べば患者を大切にしていると勘違いしている大病院も多い中、終末期医療にかかわる人だけでなく、スタッフも患者も医療に関わる人には是非見てほしい秀作です。

タバコはなし。「敷地内禁煙」の看板が何回か映りました。終末期なのだから「好きなようにさせてやろう」と誤解して肺がん患者にタバコを吸わせるような施設もあるようですが、「希望館」のように「最後まで人間らしくウェルネスライフを」という考えが素晴らしいです。

なお、タバコが主な原因であるCOPDの患者さんもひとり登場していますが本当に辛そうでした。

(注)ウェルネスライフ・・・幸福で充実した人生を送ることを目標とし、そのために自分の生活習慣を見直し気付いたところから改善していこうという健康の概念(本作パンフレットより)

<311特別記憶賞>

「朝日のあたる家」 太田隆文監督 

静岡県湖西市、自然に恵まれた町に平田一家は暮らしていました。父親(並樹史朗)はハウスでイチゴ栽培をする農家、母親(斉藤とも子)は主婦、長女のあかね(平沢いずみ)は地元の大学生、妹の舞(橋本わかな)は中学生でごく普通の家族でした。そこに、震度5の地震が発生しました。そして、60キロ離れた山岡原発が福島と同じような事故を起こしてしまったのです。避難勧告、避難所の生活、はっきりしない政府の態度、などなど福島と全く同じ後手後手の対応に、家族は翻弄されていくのでした。

沖縄に住む叔父役の山本太郎は映画のなかで電力会社が莫大な広告費でメディアをコントロールしていたことなどを話します。「競争する会社もないのに電力会社は800億の広告費を使っている。」と言っていましたが、ちなみにJTの広告費は147億円(広告宣伝費)と1012億円(販売促進費)です(数字は村田陽平著「受動喫煙の環境学」より)。説得力のあるいい場面でした。

真実を伝えるのがドキュメンタリー映画ですが、ドキュメンタリーでは伝えきれない真実をドラマだからこそ伝えることができるという作品です(☆☆)。多くの人に見てほしいのですが、なかなか上映してくれる映画館がないそうで、これもまた哀しい日本の現実ですね。

タバコはなし。無煙です(○)。ただ、空き巣犯が残したと思われる吸い殻が一本荒らされた部屋にありました。監督はタバコのことは意識していなかったと言っていましたが、本当に自然にタバコのない作品が当たり前になることを予感させる作品でした。太郎さん、禁煙しましたか。

「なみのこえ」    酒井耕、濱口竜介監督    

 311の記憶を福島県新地町と宮城県気仙沼市に暮らす人々が語る作品です。

 インタビューの形式が大変独創的でそれだけで興味深く213分という長さを感じさせません。「話す」という行為が人を変えていくことがよくわかります。このあたりは編集の巧みさでしょう()

 タバコはなし。無煙です。

 

 

 

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